FAS協会新委員長挨拶

『風信』第40号(1999.7)

FAS協会委員長交代挨拶

1993(平成5)年3月1日夜10時25分、オランダ国ライデン市内の宿舎で、協会理事長をされていた藤吉慈海さんがその前日、2月28日早朝死去されたことを、朝刊の記事で知った私の子息からの国際電話で伝えられ、遥かに弔意を捧げました。亡くなられたとき藤吉さんが77歳だったことを今、当時の日記で見、ずいぶんご高齢だと思っていた藤吉さんが、いま74歳の私からみますと、案外お若かったのにと、驚いています。

その年の12月12日、臨時総会で山口昌哉さんが理事長に選出され、藤吉さんのあと理事長を継承されていた北山正迪氏から引き継がれることになり、『風信』第28号にそのときの所信表明を発表されています。数学を専門とされた山口さんは、現存する科学と技術の方法では人類が抱える最大の難問、地球と人類との将来に関わる環境問題、を解決することはできないという予感のもとでは、中世から現代にいたる科学の根本的な反省にたつ新しい科学が求められていて、協会はその面で力を尽くす必要があり、その方向の協会の活動は宗教界にも大きな影響を及ぼすことになろう、と述べておられます。これは、協会のAS(全人類の立場に立ち、作られた歴史を超えて歴史を作る)面での活動が直ちにF(無相の自己)の働きであるような在り方を展開しようという、貴重な宣言であります。

98(平成10)年5月発行の協会第一回論集『自己・世界・歴史と科学ー無相の自覚を索めてー』の「まえがき」で、当時の理事長(5月5日の総会で理事会が委員会と呼ばれることになったため、このあとは委員長の)山口さんは、この論文集を世に問うことに最後の力を振るわれ出版一ヵ月前に力尽きて亡くなられた北山さんの、協会のために続けられた「無私の活動」を賛える言葉を記されるとともに、会員の間の文理の区別をなくして相互に共通の言語で二十一世紀の問題を語り合えるようにすべきだと述べておられます。山口さんのこのお考えは集められた論文の構成にもよく反映しており、この方向は今後ますます発展・展開してゆくはずのものと、私は考えます。

今年1月以来委員長代行を危うげな仕方で勤めてきました私が今回の総会で委員長の役割を果たすように求められるに至りましたが、藤吉、北山、山口各先輩とは大きく異なり見識、学識ともにきわめて乏しい私には、これはきわめて難題であります。不適切な判断を繰り返して、2年の任期を全うする見込みのなさそうな頼りなさですので、委員各位そして会員諸兄姉がたえず私の言動に注意されて、協会活動に支障のないようにご助言、ご批判を賜わりますよう、お願いします。私は自分の持ち前を生かす方向で努力し、無理をしないようにし、会員の皆様のご活動がつつがなく進められますように、心がけるつもりで居ります。

ところで、最近の『風信』発送部数220部は、協会会員名簿の人数です。このうち会費を納入される約百名の方々が協会の活動を支持するご意図を表明して下さっていることになります。他方、総会出席者は、大体20名です。つまり、直接協会活動に参加されない大部分の方々が陰に陽に、間接的にこれを支持して下さっていることになります。その理由は、一つには活動状況を皆様方がご認識いただき、それなりの評価をいただいていることだと考えます。しかし、それにしましても、ご自分で参加されない活動を支持する意思表示を持続していただくということは、大変なことだと思います。直接関わっておりますものの一人として、心から感謝申し上げます。

一体、この協会は、久松先生のご逝去のあと、どういう存在理由があって、これを支持する価値をもつと考えるべきでしょうか。もしもこの集まりが久松先生ご存命中だけのものであり、久松先生のご指導がないいま、その存在理由がないということであれば、活動に関わるものは即刻解散して、皆様方にご負担をお掛けすることを中止すべきです。この問題は、久松先生に直接接して会員となられた方々がさまざまの理由で協会活動の中心から離れて行かれて、昨今は、久松先生に、ご著書または古参会員との接触を通して接するだけという方々が活動の中心的な役割を担ってくださるようになりつつありますなかで、改めて考えなければならないものとなっております。

しかし、久松先生に接しられたことのおありの賢明な諸兄姉は、このFAS協会の活動が久松先生のためのものではないこと、むしろ久松先生ご自身が「人類の誓い」などに表明された「ポストモダニスト」、「世界的大衆」の自ずからなる働きを目指すものであることを、痛いほどご承知のことと存じます。その意味で、この活動は当然、久松先生に接したことのない方々の間でこそ展開して行くべきものと考えられます。最近、国内では、協会が発信します情報をインターネット上で捉えて活動に参加される素晴しい方々が少しづつですが見られます。ヨーロッパの禅者の集まりのことはすでにご報告を始めておりますが、アメリカでも協会の活動方針に共鳴する人々の集まりが出てきております。海外に情報を発信します英文ジャーナルに対応して、国内では『風信』を更に充実して、地理的な距離を克服して交流を深めて行くべきものと考えます。その意味で、『風信』委員との活発なご連絡を期待申し上げます。英文のほうも、ご遠慮なくご投稿ください。また、論究委員に対しましては、ぜひ問題提起をお願いします。摂心や平素の実究にも、機会のありますごとに積極的にご参加いただき、内容の豊かなものにするよう、ご協力をお願いします。

FAS協会の活動を支持する動きがある限り協会は存続しましょう。協会の活動に関わるものは、その存在意義を認めその活動を支持する方々への期待に、誠意を持って応えて行くことになります。

以上をもちまして、FAS協会委員長の重責を優秀な人材の続いたあとに課されました拙い私の、交代の挨拶の言葉とさせていただきます。

常盤義伸 1999年5月15日