女の立場 −オノ・ヨーコさんについて−

前田直美
風信第33号(1995.12.9)

 白い部屋にはしごが一つ。天井から双眼鏡が吊り下がっている。傍らのプレートに「天井を眺めてください」とある。はしごを登って双眼鏡を覗くと、小さな文字で「YES」と書かれている。

 オノ・ヨーコさんの初期の作品である。ずいぶん前のことだが、この話を聞いたとき、私はとてもハッとしたのを思いだす。

 こんなのもある。

   光の作品

  からっぽの袋をもって、丘の頂上に昇る。
  できる限りすべての光をその中に入れて
  暗くなったら家に帰ってくる。
  電灯のある部屋の真ん中に袋をさげる。

 オノさんは辻説法をしているな、と思ったものだ。オノさんは、何につけても陳腐な生き方のできない人だから、随分世間から叩かれた。ジョン・レノンの夫人になったりしたからでもあるが、しかし、オノさんが男だったら、あんな激しい攻撃は受けなかったはずだ。そう思うと腹立たしいが、男社会に挑戦状を突きつけながら、いつも大地に深く抱かれていたオノさんのメッセージには、限りない合いがあるのが楽しい。

 「宇宙とつながっているだけならいいけど、社会とつながっているからそれ苦労する。」オノさんのように、宇宙とつながっているというハッキリした自覚をもった人でも、社会で苦労するのかなと思ったら、面白い気もする。

 オノさんは、今、世界でも有数の実業家だが、まるでチェスをやるように商売をやっている。欲望なしにやるから、どんどんお金持ちになったりする。オノさんは中々忙しそうだが、その折々の言葉が愉快なメッセージになる。

 「女が男に負けるわけがないじゃない、だってオッパイがあるのですもの」。この言葉がどれほど多くの女たちを有機づけたことか。オノさん自身がオッパイから見事に解き放たれていたからである。