愚 詠
越智 通世
「どうしてもいけなければどうするか」
「終末が今」―「永遠が今」
気付かさるあちらこちらで労わられ
己に見えぬ老いぼれ姿
何事も珍らしからず惹かるなし
向上心と無縁になりく
老い進むふと思い出す夢の如
ひた向きなりし若き日の事
生き残り五分の一をく切りぬ
日々遠ざかるの思い出
夢醒めぬわけわからずに掻きあり
現つの姿似たるあらむか
徹不徹思わむよりはいまははや
あらむがままに成り切りゆかむ
数独にかくもはまりしその故は
曖昧許さぬ理詰め一筋
はまりある数独ミスに思い知る
執念深く振舞う粗し
甘くみて急行強行続けゆき
疲れ積りて誤り地獄
「ちょうどよいときに神様召し給う
案ずるなし」と言いし友逝く
前夜にて著作初校を終えありて
暁方すでに昇天しありと
最後まで貫き通せと励まさる
「沈まぬ未来を」叫ぶ友の書
見詰むべきもの失はば老懶の
虜となりて衰えゆかむ
「己事究明」已むときところのあるべきや
老いに籍口す愚かさ省す
思うこと言いあることを省みよ
ありのままなる姿確かめ
見ゆるものが心と思うとき
思考止りて落ち着き生まる
落ち着きてあるやと先ずは確かめよ
事始むべき原点なれば
身心の思い直下に放つべし
どこどこまでも変らぬ課題
坐ること只心地よく力生む
老いまさりゆく明け暮れにして
坐ること安らかなれど役立たず
世の中の事悲しみ多し
その昔「坐もまた無し」と言いし人
思い出され面影偲ぶ
放下せば形無き自己生死超ゆ
是非善悪も自ずと定まる
何事を為すも為さぬも悔いあらじ
形無き自己目覚めてあれば
幼な児の母に縋りて歩み行く
疑い知らぬただに美し
女生徒ら優先座席に群がれり
老婦来たれば立ちて輪となる
来む年は数え九十の声聞こゆ
わが身ながらに重々しかり
勧めあり躊いもちつ出し続く
老いの痴れ歌益するありや
(二○○八・六・一六)