愚 詠
越智 通世
何事も細かき事は煩わし
向上願う気持の失せて
ふと思う死する日待ちて生きあるか
生に倦みたる現われならむ
歩かねば衰え進むと知りながら
炬燵離れず読み書き視聴き
指曲り手首の痛み癒え難し
使い続けし八十七年
再転移いつ起るとも不思議なし
なおもここまで生かされありて
われよりもき人人相次ぎて
逝けるらせに今年暮れゆく
いま一度話したかりしついついの
怠りに聞く青天霹靂
わが聾も彼の訛りも進みいて
通話難かり遠のきてあり
彼逝きて誘わるごとくたちまちに
気力萎えゆく心地するなり
つぎつぎに昔の仲間去り逝きて
残されしわれ何語るべき
老身の坐はどこまでも心地よし
脚の痛みに執われし日日
長らうるばかりの教え空しけれ
坐れば生死得失離る
坐りいて居眠ることのふえきたる
あとの疲れもるごとし
疲るとも坐らずあれば流さるる
打切るなかれ叶わぬ日まで
友逝きて六れども書きくれし
「無位真人」はわれをます
老いみて遠のきありし厳しさに
に覚めしむ夢の導き
文字通り詩に生き詩に死す白秋の
発作時の歌驚くばかり
(北原隆太郎「覚の参究」四九頁)
行動のひとつ一つの基に覚め
坐に生き坐に死す工夫努めむ
幾春秋幹事の労に支えられ
クラスの集い天寿で合う
わが聾も妻の忘れもつのりきて
補い合いつしみまさる
気懸りの事は焦らず抱きあれ
時熟すれば工夫定まる
難題は工夫尽き果て窮通す
形無き自己活きはたらかむ
大陸に骨を埋むと誓いてし
引揚げ悲劇過ちは何
賢なれど実のうすきが憂えらる
立てある我等三省すべし
あちこちに騒乱災厄絶ゆるなし
人類誓願葛藤渦中
(二○○七・六・一四)