中七二(現、一五八)
 
評していう、この詩(「樹有り林に先んじて生じ、、、」)は寒山公ご自身の境界を云っているのだ。寒山公の所有する山の一本の木は、影を落さない(無相の)樹木だと云うのだ。「林」とは、衆生の生死の密林のことだ。「年齢を数えると、普通の年(五十年)の一倍だ」とは、一は、相對を絶する一で、一、二、三の一ではない。数を超え出ているのだ。

だからこそ「普通の年(五十年)の一倍だ」というのだ。「根は、岡が渓谷になるくらいの大変化を受けている」とは、初めて現実の真相を見、悟りの道に入った日、十方の虚空は外のものとしては一度に消え落ち、それらに囲まれていた大本の根っこも、それと一緒にたちまち消えてしまった。このことを「岡が渓谷になるくらいの大変化」というのだ。「葉っぱは風と霜とにであって何度も生えかわった」とは、そのあと、三大カルパ時の間、練りに練り、霜や雪に出会う辛苦を経て、煩悩の枝葉、知識と見解との花や実がすっかり枯れ尽くしたことだ。いまや、本来の、頭が山形の杖は、粉飾を加える余地がまったくない。それゆえ、「皮膚が脱落し尽くして、ただ幹(真実)だけがある」と云うのだ。(全集六八頁)
(常盤 二○○○、一○、二一)