香厳和尚について

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2000.11.18 sat
祖堂集より

香厳(-898)。為山(いさん、為=さんずい+為)(771-853)の弟子。身体は大きく博学能弁で並ぶものがなかった。

為山のもとにいたとき、「真理」の論戦で誰独り彼をうち負かすものがなく、そのために香厳は禅匠とよばれた。為山は、香厳の知識は広いがまだ根本のところを理解していないと知っていたが、師の為山でさえ、口では香厳にかなわなかった。

あとになって、為山が香厳に言った。「おまえのこれまでの見解は、目と耳で他人から見聞きしたり、書物を読んで覚えているだけのものだ。もうおまえに質問はしない。ただ、おまえが父母の恩恵を受けてこの世に生まれ、未だに西も東もわからないときのお前の本分を言って見ろ。わしはそれでお前を判断する。」

香厳はそういわれて、また何か言おうとしたが、為山は受け付けなかった。香厳はさらに「自分のために何か教えてほしい」といったが、為山はこれを制し、「わしにおまえのことをあれこれいうのは見当違いだ。わしが自分のことをいったところでお前さんとは何の関係もない。自分で考えることだ」と言った。

そこで、香厳は自分の部屋に帰って書物をすべて調べてみたが、ぴったりとくる言葉はなく、読破した書物をことごとく焼いてしまった。

香厳は「もう今生で仏法を学ぼうとは思わない。これから飯食い坊主となって悟りから遠ざかろう」と言って、為山に礼を述べ落涙して門を出ていった。

香厳は香厳山の慧忠国師の遺跡にいき、心を休めそこに寝起きしながら生い茂った草木を除き悶々とした気持ちを紛らわしていた。あるとき、瓦礫を投げ、カチーンと当たったとき悟った。

すぐに室にかえり香をたき威儀を正して五体投地して為山のいる方角を仰ぎ見て、為山を称えていった。「本当の善知識、大慈悲を具え、迷える我が身を救済してくださった。」